第10章 安らぎを求めて出久くんとスローライフな性活を送る話
「ごめんっ……大丈夫、僕のことは気にしないで」
『でも、よく見たらまた傷が沢山…。ねぇ、何かあったの?』
後ずさる少年は、これ以上言うべきことはないとばかりに、視線すら合わそうとしない。友人の自分にさえ教えられない、何か退っ引きならない事情があるんじゃないかと冷静に思索するものの、そんな拒絶的な態度を取られれば、当然惑いが心に渦巻く。
理由が分からないからせめて近況について共有してくれると助かるが、ここまで頑なに黙止すると言うことは余っ程なことなんだろう。
「兎に角っ…今すぐ誰かに頼んで避難所まで連れてくから」
『ま、待って出久くん…!今君がするべきことは私を安全地帯へ届けることじゃないっ…』
寧ろその逆だと緑谷に訴えかけた。今まで喧嘩なんてなかったし、互いの立場を尊重し助け合い、歩幅を合わせながら親愛を育んできたつもりだ。信頼に足ると自分の中で勝手に思っていた、でも違ったのか…?秘多は今にも消え去ろうとする彼の手を瞬時に握り、引き止める。
『避難所、行くなら一緒に行こう?』
「出来ない」
『どうして…?』
「僕は一緒にはいられないんだ…ごめんね」
そう謝ると彼の手がそっと離れる。寂しげなトーンからして愛想が尽きたとか、これまでの自分に嫌気がさしたとかでもなさそうだ。誰も巻き込ませたくないと、或いは誰も失いたくないが為に自ら遠ざけようとしているように聞こえる。
何が緑谷をここまで追い詰めた?何か深刻なことが起きているのなら、一人に背追い込ませるのではなく、苦悩を分かち合いたい。彼はヒーローだけども、元より人間だ。戦えば傷付くし、傷付けば痛むんだ…。
『君に何が起きてるのか私にはさっぱりで…本当、いつも何もしてあげれなくて不甲斐ない』
「密ちゃん」
『それでも…、少なくとも私は君の味方だから分かるよ。今の出久くん、凄く辛そうにしてる…』
でも今は相手の意思を重んじるべきだ。すぐにでもその傷付いた身体を抱き締め、真意を問いただしたくなるのを努めて抑える。
「僕は…」
暫くすると、無理に感情を抑えたような一言がマスクを越して溢れ出た。一方的に濡れる肩が僅かに身じろぎ、絞り出された声音もあからさまに弱々しい。次に紡がれる言葉を辛抱強く待ったが、タイミング悪く聴こえて来たサイレンの音が弁明の機を確実に逸してしまった。