第10章 安らぎを求めて出久くんとスローライフな性活を送る話
そして今日も、僅かに顔を綻ばせる彼と何もない一日を過ごす。安息と言う名の現実逃避を繰り返して……。
…ーー
数日前ーー。
この見慣れた街も随分と変わってしまった。
人気もない程荒廃している大通りを独り歩く女子がいた。道路や建物の至る所は歪み損壊し、悍ましい程の負の空気が感じられる。そんなゴーストタウンと化している街にも、少し前まで人が普通に生活していたのだろう。いつもと変わらない毎日を、これからもずっと生きていけると思って…。その生活感がまだ残ってるせいなのか、ここで暮していた人々の日常が垣間見えてきて、却って胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。
多くの犯罪者が世に放たれた世界は今、大混乱の状態に陥っていた。脱獄の対応で警察も人手が足りず治安維持が疎かになっている為、各地域から多くの住民が避難し不安に怯えた生活を余儀なくされている。それに加えて、ヒーローへの不信感を抱いた市民は救助を拒否し、各々の手で敵に対抗しようと試みるものの、市街地での被害は悪化する一方だ。全くどうしたものか……。
かつて友人とのんびりぶらついた場所とは思えない変わりように気が滅入ってしまいそうになりながらも、秘多は傘を片手に、「I AM NOT HERE」と記した看板を掛けられた銅像を横切った。
「色んな"個性"を持ってるって聞いたよ」
「脳無かしら…!?」
「でも助けてくれるらしいよ」
歩いている途中に注意深く耳を立てていると少なからずの情報が耳に入ってくる。なんでも複数の個性を持ち、音もなく現れては助けてくれるヒーローがどこかで飛び回っているとのことだ。夥しい見た目の割に、凄く頼もしく親切という噂も。改善の兆しが見えないこんな状況でも、諦めずに戦う者がいてくれるんだな。彼らの勇気ある行動が、多くの抱えている不安や疑心の火種を取り除いてくれれば良いが…。
当てもなく街を彷徨い続けて、体感では一時間から二時間程が経過している。単に運が良かっただけかもしれないが、ヴィランとの接触も目撃もなかった。帰路についている間もどうか出会さないように…、そう願いながら秘多は少し一休みにと雨を凌げる場所を探し求める。丁度近くの広場にいい感じの休憩場を見つけるが、早速向かおうとしたその時だったーー。