第2章 門限破ってまで救けに来てくれた出久くんと濃密な一夜を過ごす話
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一番奥の狭い個室に入り、カーテンを閉めると言われた通りに緑谷は不器用ながらシャツを脱いだ。背は向けているものの、ガチガチに緊張をしていて、秘多が何を話しても全てカタコトで返してしまう。
『ごめん、滲みた?』
「ゼンゼンヘイキデス…オカマイナク……」
緊張が痛みを上回る。それとも彼女が丁寧に傷口周りを拭いてくれているおかげなのか。どっちにしろ胸の高鳴りが治まる気配がない。
狭い個室に、二人きり。不意に思い出してしまう、あの日のことを…。
『色々ありすぎたせいで、言いそびれちゃったけどさ…改めて、出久くん私を助けに来てくれてありがとう。君は恩人だね…』
「そんな、僕はただ…君がヴィランに攫われたって聞いて、居ても立っても居られなかったんだ」
お礼の言葉を耳にやっとカタコトが解除されると、緑谷は照れ臭そうに頬を指で掻いた。
『雄英でヒーロー目指してるだけあって、凄い勇気だね。でもまさか、本当に来てくれるなんて…』
「へ?」
『何処で思ってたんだ。君がヒーロー見たいに助けに来てくれないかなーって…』
秘多が無邪気に笑うが、それとは対照的に緑谷の表情には不安のような暗がりがあった。彼女の怯えた姿を思い出し、脳裏に浮かぶ様々な想像が嫌でもリフレインする。
掘り起こすようなことはなるべくしたくない、でももしソレが彼女を大きく傷つけたとなれば、尚更知らずにはいられないと思った。
「その…もし嫌だったら話さなくて良いんだけど、秘多さんが囚われてた時……ヴィランの奴らに何かされたの?」
息を呑んで問うと、秘多の手がぴたりと止まった。それだけで緊張感が漂う。
「あぁ、どうして私があの場であの格好だったのか知りたいの?」
「そ、それもあるけど…心配なんだ」
いいよと言うように一息つくと、再度手を動かすと同時に秘多が語り出す。知ってた通り、あの組織は人身売買目的の為、人攫いをしていた。主に個性の扱いに不慣れな若い女性や生徒等を標的に。
『有能な個性を持つ子ほど早く高額な値段がついて、どこかの国に売り飛ばされるの。私の場合そうじゃなかったみたいで、売り物にするなら売春にって…その、ちゃんと売り物になれるか、点検に出された時、奴らにーー』
「!!…酷いことされたの?!」