第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
潤んだ瞳の奥底に息づいている灯火を覗き込もうと、瞬く時間すら要らないというようにひたすら見詰め合う。しばし無言のまま眼で対話をしてから室内の湯気で温まった指先が柔い頬の斑点を僅かに掠めた。
『我慢って難しいね……』
戸惑いや動揺、複雑な感情に絡まる彼の瞳に、秘多はふふっと吐息を溢しながら微笑む。少し悪ふざけが過ぎてしまったとついでに謝りゆっくり身を離そうとした直後、無骨な手によって引き止められる。頭の片隅でなんとなく予感したその動作に、自然と身体が緑谷に凭れ掛かるとこの日初めての口付けを交わした。
二人っきりの時だけにしか交わすことが出来ないキスは浪漫的と言うよりは懐かしい感覚だった。柔らかくそれでいて熱烈に唇同士を押し付け、喰むようにして何度も粘膜を挟み合う。合間にうっすら瞼を上げると期待させておいてそれはないとでも言いたげな、眉間に皺を寄せた緑谷の瞳に真っ直ぐ射抜かれた。
『んふ…♡んっ……』
それが合図となり、僅かに開いた唇に彼の舌先が這い、自分のを求めて絡めようとそのまま咥内へと突き立てた。互いが互いに触れる動作はあからさまに友達同士がするような取っ組み合いとは程遠く、性急で恋仲のソレさながらに濃密であった。
くちゅっ…♡ちゅく♡ちゅうちゅう♡
『はっ…♡いず、く……』
次第に互いの歯列や上顎を愛撫するようになり、何方かが気が済むまでしきりに結合する口づけを繰り返した。やがて床に背中を預けた秘多を、緑谷は力任せに押さえつけ、何処にも逃したくないが為に滑った舌を何度も捉える。こうして全身で抱きしめ合っている限り、離れられる訳ないのに…。心なしか必死になっている様子が初々しくて、初めて夜を共にした時の記憶が蘇っていく。
「はぁ……本当に難しい、辛い…」
そうだ…、あの時もこんな風に辛そうにしていたっけ。体内に溢れ出る情欲を吐息に変え、自分の為に理性を保とうと頑張ってくれている。どんな脅威にも屈しない力を持っていながら、自分と言う存在が側にいるだけで脆弱になってしまうヒーローのことを甘やかしてあげたい…、慰めてやりたかった。
『仕事残ってるから。少しだけなら、ね…』
余裕がありそうでない声に、ごくりと喉が上下した。その直後、緑谷の手が襟元に掛けられ、差し込みながら布をずらすと白白とした肌が露わになっていく。