第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
『♫〜』
白々しく鼻歌を口ずさむ秘多が“ゆ”と大きく書かれた暖簾の前に立つ。一応合鍵を持っているが、内側から掛かってないのを良いことに、スライド式の扉をゆっくり引いた。
自分が来るのを悟った上で開けておいてくれたのだろうか?勘が冴えていることで実に有難い。脱衣所の籠に緑谷の物と思われる衣服が入っているのを確認してからいざ参るっと言った勢いで浴室の戸を開けた。
ガランッーー
『少し待たせちゃったね』
「びっくりさせないでよっ…!」
タオルを腰に巻いた緑谷がひゃわっと奇妙な声上げながら肩を大きくビクつかせる。どうやらまだ頭を洗っている途中だったのか、シャンプーの泡が流しきれていない様子に少し笑ってしまう。
本来なら事前予約が必要で料金も取らなければならないのだが、今晩だけ特別に使わせて貰うことになった貸切専用の個室風呂。まぁ、正確には女将の眼を盗んで勝手に持ち込んだ鍵を使ってなんだけど…。今回ばかりは自分の中のワルをどうか見逃して欲しいと祈った秘多は、和装の袖を襷掛けで留めてから緑谷に近付いた。
『湯加減はいかがでしたか?』
「丁度良くて…気持ちいいよ。効果も出てるみたいで…って、密ちゃんその格好だと濡れない?」
『ん…?背中を流すくらいならそこまで濡れないと思うけど?』
「…へ?」
何のことやらと知らんぷりを装う秘多がタオルを持ってバスチェアの側に寄るや否や、緑谷は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。つぶらな瞳をパチクリさせる少年を更にからかうように、へたった髪型もまた可愛いなと思いながらわしゃわしゃと撫でた。
『その為の貸切だし…ふふ、何を期待して待ってたのかな?』
「っ……ホント抜け目ない」
『さて、頑張ったヒーロー様には寛ぎと癒しの時を存分に堪能してもらわないと」
檜が香る浴槽の湯水が間断なく湧き続ける中、緑谷の背後に廻った秘多が予め泡立てたタオルで背中を洗い始める。泥になじみに鍛え上げられ、以前よりも角ばった体つきは見るからにも骨太で、どこまでも着いていきたいと思わせる程に逞しい印象だった。