第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
『お詫びだなんてまた……でも、そうだね…』
「…?」
思案に暮れている様子の秘多を、緑谷は首を傾げながら見詰める。そして暫くした後に、彼の一歩前に出ると目を瞑りながら少し身を乗り出した。
『んー』
「あの、密ちゃん…?」
『んー…』
「え、えーと…!そ、そそのっ…」
敢えて返事をせず、口付けて欲しいでも言うような表情を緑谷の前で披露する。急に名残惜しくなったとはいえ、我ながら幼稚なことをするものだ…。片目だけ薄ら開かせて、ダメ?とややあざとく強請るが、彼は決まりが悪そうに瞳を揺るがせるだけで中々腹を括ろうとしない。それでも秘多は諦めまいとキス待ち顔で待機し、先に折れてくれるのをちょっとばかり願った。
「っ……いつも危なっかしいマネするんだから」
館内に知り合いがいると言うのもあってやはり駄目かと思った途端に、緑谷の両手が二の腕に添えられる。心許なく溜息を吐くけれども満更でもないといった顔をしていた。それでこそ自分が恋慕ったヒーローだ。
『んん…』
「もう分かったっ……」
甘ったるい痺れが胸の奥にまで伝わっていくのを感じながら、まだかな、まだかなとさりげに急かす。遠慮も恥じらいも勢いで払い除けた緑谷に腕をこわごわと掴まれてはゆっくりと顔を寄せてくる。そう意気込んだ本人の背後に誰かが立っているとも知らずにーー。
「緑谷」
「へあ?!!と、とと轟くん…!」
突如として呼び掛けられた声に吃驚し、脱兎の如く秒で身を離し合う男女。いつからいたのだろう?眼を瞑っていたとはいえ、気配すら感じられなかった。
「…どうしたんだ?こんな所で」
「あの…これはっ」
ワタワタと慌てふためく緑谷と、その横で落ち着きを取り戻そうと咳払いをする秘多を、ポーカーフェスの少年は見詰めていた。自分達の行いに於いて何を思ったのか、読み難いその表情では伺うことが出来ない。
キスしなかったとしても、素振りだけで十分そういった雰囲気を醸し出していたに違いないだろうし、そう捉えていても可笑しくなかった。仕方ない…、多少のリスク負ってでもここはベタにあの言い訳で切り抜けるしかなさそうだ。