第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
「密ちゃん」
『あぁ、出久くん…丁度良かった』
「だ、大丈夫?さっきかっちゃんに突っ掛かれたように見えたけど?」
先程のやりとりを見て心配になったのか、眉をひそめる緑谷に対し首を横に振る。
『平気、倒れそうになったところを助けて貰っただけだよ』
「そう…だったの?」
『ふふっ、ちょっと怒られはしたけど…』
「何もなかったならいいんだけど…。いや、でも必要以上に距離近かったよなアレ。不可抗力だったとは言えーー」
ブツブツブツブツブツブツブツブツーー
物凄く小声で聞き取ることは出来ないが、奇妙なことに彼は悩ましく思考を巡らせている。可笑しなこと言っただろうか?逆にこっちが心配になり、緑谷の目前に手を振ってあげるとハっと我に返ったように瞬いた。
『出久くん…どうかした?』
「あ、ううん…!何でもっ。それにしても、凄く凛々しい格好だね、よ、よく…似合ってるよ」
『え、そう…?ありがとう』
ヒーローや個性の前だと耳に胼胝ができる程褒め称えるのに、こういう時だけたじたじになってしまうのは相変わらずだ。そんな緑谷にはぐらかされたような気はするもの、無性に照れ臭くなる。
程よくモダンのテイストを取り入れつつも、主張しすぎない落ち着いた色柄が映える和装は自分でも気に入っており、働きに来る毎に着こなすようになっていた。身形がいいと率直に褒められて嬉しく思わない女性はそういないだろう、それが想い人から向けられた言葉なら尚のこと。若干甘美な心地に浸りながらも、秘多は小さくはにかんでから改めて視線を合わせた。
「そう言えば、出久くん達夕飯まだなんだよね?お婆ちゃんが良かったら食べに来なさいって』
「そんな、いいの??」
『うん…ミッション帰りだったんでしょ?尚更英気を養わないと』
「何から何まで、そのっ…ち、近い内にまた何かお詫びさせてください…」
加えてありがとうと何度も謝意を示す彼。インターンシップでまた一段と忙しくなり、身動き出来ぬ程スケジュールが詰まっているにも関わらず、そうやって口約束だけでもしてくれるのは良い事だと思う。好きな時間で一緒に帰ったり、寄り道したり、もう以前と同じようにいかないのが現実なんだろうけど、いつまでもそれを悔やむ訳にはいかないのだ。