第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
…ーー
「後は呼んできてちょうだいね」
冷めても大丈夫なように加工し、色合い良く清楚に盛られた料理はどれもシンプル尚且アットホーム感を醸し出している。女手一つ短時間でこれだけの品を揃えるとは流石、長年女将をやってるだけあると秘多は感心しながら頷いた。食事の支度が一段落ついたところで、早速彼らを呼び出そうと客室の階へと赴く。しかし、軽快な足取りで通路の角を曲がろうとしたその刹那ーー。
ドンッ
『っ!!』
あろうことか足を踏み外してしまい曲がり角にいた誰かにぶつかる。その反動から後ろ様に身体が傾き、転ぶと思った瞬間には手首を掴まれて無理矢理に体勢を立て直された。
「っ…、モブ女が走ンじゃねぇ!」
特徴的な怒鳴り声からして、顔を見ずともそれが久しい元同級生のものだと一瞬で分かった。倒れずに済んだ秘多はよろめきつつも、目の前の人物に若干唖然としながら頭を数回下げる。自分としたことが、人気が少ないからって迂闊にも客人にぶつかってしまうとは。
『ごめんなさいっ…今のは私の不注意でした。爆豪くんお怪我はありませんか?』
「あ“?ねぇわ!ぶつかっただけだろがっ」
更に声を荒げた爆豪がブンっと秘多の手首を投げ落とす形で手放し、そのまま押し退けるようにして横を通り過ぎる。心配されたのが逆に癪だったからだろうか?感受性弱いんだか、タフなんだか、色々と対応に困る人だ。まぁ、中学時代のあのイキった態度と比べたらまだマシな方かな…。当時の友人を虐めたことに関して未だに腑に落ちないところは多々あるが。
『あの、もし良かったら食堂にいらっしゃってください。大したおもてなしは出来ませんが、一応補食は必要かと……勿論、私達からなのでお代はいりません』
「チッ…うじうじうっせぇ」
見向きもせずそう吐き捨てるように言うと思いの外、彼は素直に食堂へと繋ぐ通路へと歩み去っていった。手の焼ける子供を見ているみたいで不意に溜息が一つ溢れる。他の二人にも同じことを伝える為、再度脚を進めようとすると丁度突き当たりの所から緑谷がこっちに向かって来ているのが眼に見えた。