第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
全員が無事で良かったと秘多は安堵するように微笑み返した。
「知り合いだったのか?」
「う、うん…中学の頃、えっと……」
『秘多密です。出久くんと爆豪くんとは中学の同級生でした。轟くんとお見受けしても?』
代わりに答える秘多に、轟はああっと返し頷いて見せる。成る程、この人が現在ナンバー1の…。そして体育祭で緑谷と一戦を交えた相手の一人。中継でしか観たことなかったが、あの時繰り広げられた闘いの壮絶さに一時はどうなることかと肝を冷やされたのを今でも覚えている。
「あっ、そうそう。かっちゃん、密ーーじゃなくてっ…秘多さん覚えてる?同じクラスだった子だよ」
「モブの顔なんざ一々覚えてねぇ」
キリッとした三白眼が自分にも向けられるが、すぐに素っ気なく逸らされる。モブの部類に入っているのであれば記憶になくて当然だろう。これでも多少丸くなったと話で聞くけど、言葉遣いは中学の頃と変わらず下の下って感じだ。威勢が良いのは元気の証だと一応捉えておこう…。
さて、明日もきっと長い旅路になる。なるべく早く心身を休めてほしいという思い故に、そろそろお暇させてもらおうと秘多は雄英生達に鍵等を配った。
『それでは、先に失礼させて頂きます。何か必要なものがございましたらなんなりとお申し付けください。どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ…』
「あ、密ちゃん…」
何か言いたげな緑谷に振り返らず、急いで一階のフロアへと脚を運んでいく。置いてってしまったことに少し悪い気がしたが、女将からの呼び出しもあった為油を売る訳にはいかなかった。それとは別にいつも救けられてる身からして、いざと言う時に頼ってくれるのは嬉しいものだ。ヒーローみたいにとまでいかないけど、友人の為なら形はどうあれ、出来る限りの微力を尽くしてやりたい。
そんな淡い想いを胸に、秘多は館内に漂う爽やかな香りを辿るように通路の奥へと姿を消したのであった。