第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
オフシーズンの時期に?そして今から?そもそも何で雄英のヒーロー科達がこんな大吹雪に見舞われた田舎に来ているのかなど、質問が更に質問を呼び寄せ、一時は頭が混雑状態になっていた。
一旦落ち着いて緑谷から事情を伺ったところ、どうやら遠出の任務だったらしく、完了した後に何らかの形で経路を誤ってしまい帰れない状況に陥っていたと…、なので一晩だけここに泊めてもらいたいとのことだった。
『男女入れ替えの準備がございますので、23時までのご利用時間とさせて頂きます。ご入浴になる際は――』
「…向かい側の車両に乗るべきだったな」
「テメエが間違えたんだろうが!」
『一階の大浴場までお越しください。当館の温泉は源泉かけ流しとなっており、神経痛や疲労回復などに効果があると――』
「誰も気付かなかっただろ。てかお前乗ってすぐ寝て――」
「寝とらんわクソがっ!!」
「ちょっ…!」
凄い…。人が丁寧に館内の説明をしているにも関わらず、クソがっ!だの、シネッ!だの、後ろで暴言のフェスティバルが開催されている。間にいる緑谷がオドオドと調和を促そうとするも、不毛な議論は続いていた。
幸いなことに彼ら以外の宿泊客はいない。悪質なクレーム現場みたいなところを他者に目撃されでもしたら、時代を超えて大切に護ってきた館の評判も危うくガタ落ちになるところだっただろう。オフシーズンで心底安心したのは今日が初めてかもしれない。脳内で涙する女将の姿に心を痛ませた秘多は、それでもそ知らぬ顔で言葉を紡がせながらなんとか彼らを部屋の前へと誘導した。
『説明は以上となりますが、ご不明な点や質問はありますか?』
「「…いいや/ねぇ」」
「あのっ……密ちゃん」
同時に答える二人の後に、緑谷は心底面目ないといった感じで秘多に呼びかけた。余程お疲れだったのなら乗り間違えも寝坊も仕方ないか。雄英のヒーロー科いえど普通にヘマはするし、人間なんだなと妙な安心感を覚える。
『こんな偶然もあるんだね』
「ごめんよ、急に押し掛けたみたいな感じで…」
『気にしてない…困った時は、お互い様』
そう言うと緑谷は肯定する素振りで口角を僅かに吊り上げる。ルートを誤ったとは言え、辿り着いた先が偶然とこの温泉街だったおかげで彼らは野宿ぜずに済んだことだ。