第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話
「いらっしゃいませ、ようこそお越し下さいました」
『道中お疲れ様でした』
イッツ・ア・スモール・ワールドとは、このことか。世界は皆んなが思ってる程広くないのかもしれない…。
「緑谷様ですね。本日、三名様でお伺いしておりますが…」
「はい、そうです…こ、こんばんは」
小粋な和服を身に纏った女将がはつらつとした微笑みで再度会釈を交わす。古き良き時代の息吹を感じさせる木造建築はほの暗く、多少の劣化は見られるものの、どこか懐かしいレトロな雰囲気は都会の日常をふっと忘れさせてくれるようだった。
『お疲れのところ申し訳ありませんが、あちらでお宿帳にご記入をお願いします』
本日の宿泊客、三人の青少年を玄関で出迎えるとその内の一人、親愛なる友人こと緑谷はぎこちなく頷いてからフロントへと向かっていった。思いっきし抱きついてやりたいところだが、まだ勤務中ということもあって敢えて出しゃばらず、嬉々として小さく口角を吊り上げながらお連れの二人にも眼を配る。
後ろに着いてきた紅白ツートンの少年。最初は無言だったもの、軽くお辞儀をしてからどうもとだけ呟いた。当館の和内装がお気に召したからだろうか、顔は無表情なのに目許だけ何処か懐かしげで綻んでいるようにも見える。そして先程から舌を鳴らしているしかめっ面の金髪。あれ、どこか見覚えがある人物だと思ったら、あのヘドロ事件の元同級生 a.k.a 彼の幼馴染ではないか。
となると彼らはインターン仲間ということか…、なんだか凄いチームだなと秘多は呑気に心の中でポンっと拳を手に置くのだった。
「密、お客様の案内お願いね」
『はい。それでは、お部屋までご案内させていただきます』
3部屋分の鍵を受け取り、仲居としての役目を果たすべく彼らを客室まで案内する。気忙しなく眼を泳がせている緑谷を尻目に、秘多は実にマニュアル的な声音で宿泊施設の紹介をしながら和装の袖を揺らした。見知った顔を前にしても取り乱さなかったのは、当館の女将であり祖母の手厳しい指導と慣れあってこそなのだろう。
親族が経営している温泉宿でたまにお手伝いに来ているとういう何気ない会話を、良く覚えていたものだ。「素泊まりで良いから3部屋空いてないかな?」と急に電話越しで頭を下げられた時は正直焦った。