第2章 門限破ってまで救けに来てくれた出久くんと濃密な一夜を過ごす話
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『カプセルホテルなんて初めて、出久くん来たことある?』
徒歩で5分、格安で泊まれると言う、うどん屋の店主に勧められた宿に脚を運んだ先、そこは古めかしい外装のカプセルホテル。手持ちの予算を考えて、唯一借りられたのが1人用の個室だった。カプセル状と言うことで、通常のホテルよりずっと狭くマットレスや照明灯、小型テレビなど申し分程度に置かれている。
ただ寝る為だけにあると言った感じでとても新鮮だった。普通なら男女2人で一室を共有することは禁止されているが、今晩は客人が1人2人いる程度だし、静かにしていればまずバレないだろう。
『シャワー付きで助かったね』
「う、うん…あの、秘多さん」
『着れる服が出久くんのしかなかったけど…』
「秘多さんっ」
「?」
ソワソワとした様子で呼びかける緑谷を、秘多は不思議そうに振り返る。あんな恐ろしい経験をしたばかりなのに、どうしてそう平然といられるのか。下はギリ隠せてはいるが、シャワーを浴び終えた彼女の服装は上着一枚のみ。
元クラスメイトだからって、所詮中身は年頃の若い男女、警戒心の無さすぎでは?
「僕野宿で良いから、秘多さんは此処使っててよ」
『え、でも……』
「ほら、あんなことがあって僕といても不安だろ?秘多さんにはちゃんと休んで欲しいし。近くに公園があったから、僕はそこでーー」
ガシッ
緑谷がゆっくりその場を去ろうとした刹那、己の胸に勢いよく彼女が飛び込んで来る。一歩後退った彼は驚愕しながらも、震えるその身体を抱き留めていた。
『ダメ…行かないで。私をおいていかないでっ、出久くん』
下を見遣れば、今まで見せたことが無いとても不安げな表情を露にしている秘多がいた。胸板にしがみついている指先の震えだけで緑谷でさえ痛いほど悟れる。
それ程の怖い思いを彼女はしたのだろう。緑谷は静かに、自分よりも薄いその背を摩った。
「君を一人になんかさせないから…」
中学を卒業してから何処かでばったり会ったり、連絡すら交換しなかった元クラスメイトの娘を、こんなにも護ってあげたいと思ったのはどうしてだろう?
「大丈夫、僕がいる」
幾度もの戦いで、満面の笑みと言葉で誰かを安心させたことは何度かあったのにも関わらず、今はどことなく気恥ずかしい。