第8章 誕生日にアメコミ小ネタかました出久くんとサンデー作りする話
特に行く宛ないまま、適当な店で腹を拵え、寒い街中をぶらぶら歩きながら言葉のキャッチボールをする。誕生日祝いにしては無難過ぎるかもしれないが、それでも一人でぼーっと過ごすより全然良い。緑谷と一緒に出歩られただけ十分充実した一日だったと、満足気に思う秘多がほっと息をついた。
『本当に良かったの?外出許可取ってまでして』
「今日は君の誕生日なんだよ?それくらい全然。寧ろ、誘ったのが僕で良かったのかなって思うくらいだよ…」
『ううん、出久くんで正解だった。映画観た後にちょっとマニアックな話が出来て楽しかったよ…』
だからありがとう。そう素直に礼を述べると彼は頬を掻きながらどういたしましてと返した。無性に照れくさくなって火照った頬をマフラーに埋める仕草が小動物みたいで可愛らしい。秘多は小さく笑いながらふと夕焼けが滲んだ雲を見上げる。
楽しい時間というものはどうしてあっという間に過ぎてしまうのだろう…。仕方ないことだって分かってるつもりでも、突如として淡い名残惜しさが心に沁み広がる。
『そろそろ暗くなる頃だし、駅に戻ろっか?』
「あ、あのさっ…!」
黄昏れた感情が顔に出ないように緑谷に振り返ると、彼は何故かしら戸惑った様子で指同士を動かしながら何かを口ずさんでいた。急にどうしたのと目を瞬かせる秘多が首を傾げる。
「プレゼントは何も要らないって君は言ってたけど。じ、実は色々考えて用意してたんだ…大したものじゃないんだけど」
『プレゼント…?』
「ほ、本当にくだらないことだからっ。でも一応渡しておくね、目瞑って待ってて」
『えっ…ここで?』
大きく頷く緑谷に対し更にハテナを浮かばせると、言われた通りに瞼を閉ざした。確かに、緑谷と過ごせるなら何も要らないと言ったが、きっとそれだけじゃ納得がいかなかっただろう。実に彼らしいなと思いながら秘多はそのプレゼントとやらを心待ちにした。
「ぐぬっ…」
『……まだ?』
「もう少しっ…!」
物をくれるならだけならそう掛からないはずだ。先程からバシュッ、ギシッと言う軋んだ音と、唸り声のようなものが耳に入ってくるが、全く想像が付かない。なんとなく普通の贈り物ではないという予感だけしていた。今回のヒーローは何を目論んでいるのやら…。多少不安になりながらも、開きそうになる瞼を抑えながら辛抱強く待つ。