第1章 始まりは最悪な形で
「ここに杏花ちゃんが眠ってるの?」
『....うん。』
リツカは墓前に座り込み手に持っていた白と黄色の菊を墓前に添えると線香に火をつける。
そしてそれをタケミチに渡すと、自分の線香を線香立てに置いて手を合わせた。
『....』
「....」
しばらくの沈黙が流れる。
耳を刺すほどの蝉の声と憂鬱になるほどの暑さだけが辺りに立ち込め、どこか寂しい気持ちになる。
『タケミチは....ニュース見た?』
静寂を破るように手を合わせたリツカが目をそっと開けタケミチに視線も向けず、問いかける。
閉じていた目を開けるとタケミチは墓標に刻まれた名を見ながら「うん。」と短く答えた。
『....そっか、じゃあ知っちゃったんだ。ヒナが死んだの。』
「あのさ、リッちゃん。橘 日向が死んだって本当なのか?俺未だに信じられなくて....」
『....本当だよ。目撃者の話によれば、杏花とヒナ、直人とお祭りに行った時に東京卍會の抗争に巻き込まれたらしい。』
「東京卍會ってリッちゃんが追ってる犯罪組織だよな?大丈夫なのか?」
『まぁ、守秘義務があるからあんまり言えないけど....危ない組織なのは確か。』
「え!?それ大丈夫か!?ほら街とか歩いててもしそいつらに見つかったら....」
殺されるんじゃないか....
寺を出て2人で街を歩いていると、リツカの話を聞いたタケミチは緊張した様子で周りを見渡す。
しかし、当の本人であるリツカはそんなタケミチを見て面白おかしそうにケラケラと笑った。
『大丈夫だって。さすがにアイツらも今回の騒動で自由には動けないはずだし。それに消すつもりならとっくに消されてるよ。』
「楽観的だな....リッちゃん。でもなんか、ごめん。俺がわがまま言ったから....」
『ハハ!何言ってんだよ。むしろ感謝したいくらいだわ。』
「え?」
『私さ....杏花の葬式も墓参りも行けなかったんだ....多分信じられなかったんだと思う....あの子が死んだってこと。今でも実感ねぇもん。』
「....俺だってそうだよ。今日のニュースで橘が死んだって知ったけど。未だに信じられないし....」
『じゃあ私たち似たもの同士だな!』
「なんだよそれ。」
ニカッ!と笑うリツカを見てタケミチもつられて笑う。