第19章 羽折れの天使
その場に張り詰めたような緊張が走る。
意識が朦朧としながらも聞いていたタケミチは恐る恐るリツカに視線を向けた。
見上げられた顔には表情がなくただ無だけがそこにあった。
渋谷の白い悪魔とソロモン
どちらもひよっこのタケミチでさえも知っている。
突如として現れ、突如として消えたチームと総長。
それが本当にリツカなのか
にわかには信じがたいものだった。
『......はぁ。もう少し不良達に口止めしとくべきだったな。ここまで言い当てられてたらさすがに言い訳しても無駄か。"ブネ"と"バラム"にまた情報操作してもらわなきゃ。あと"フォラス"と"ベリト"に情報流した奴の後始末と.....あーあ。やること多すぎ。絶対怒られるよね。"バアル"の怒り顔が目に浮かぶな。』
どこか嫌そうにそして面倒くさそうに呟くリツカを前に誰もが目を丸くする。
「え?」
「リッカ?」
『はーあ。そうだよ。そうですよ。私が"ソロモン"の総長にして"渋谷の白い悪魔"だ。何か問題でもある?正確には私の別人格"ムツカ"のことだけどね。』
「!!?」
「ヒャハハッ!やっぱりか!」
「リッカ.....オマエッ!この事マイキー君たちは!」
『知らないよ。私が全力で隠蔽したからね。当時私は小学校中学年だったし。ソロモンの活動期間も1年や2年のそこらだったから。隠滅するのは簡単だったよ。』
何がおかしいのかリツカは喉でククッと笑う。
その姿はなんともおぞましく妖美だった。
「隠滅って何したんだよ.....」
『簡単。知ってるヤツ全員黙らせた。とにかくできる手は全部使ったよ。あ、もちろん殺しとかはしてないよ?でも嘘の情報とかは流した。金が欲しいと言えば金をやり、情報が欲しいと言えば情報を与えた。まぁそれも1回きりだけどね。だから表でソロモンの総長なんじゃないかって言われてる奴は私の元腹心の"バアル"の称号を与えた男。ソイツが私の存在を隠してくれている。だから私が総長だったっていうことは元ソロモンのメンバーとごく一部の不良しか知らない。』
「「......」」
あんぐりと八戒もタケミチも口を開け、リツカはその顔を見ると面白可笑しそうに笑った。
笑い事ではないだろうに。
でも直ぐに表情を凍らせると地を這うような声でこう言った。