第14章 嵐の前の静けさ
卍 卍 卍
「愛美愛主の長内君ですよね。」
「あ?なんだテメー」
最初の印象は地味なガキだった。
容姿はボサボサの髪にきっちりとした制服を着こなし、漆黒の瞳を持った少年
どう見ても不良の世界とは無縁の生活を送っているようなガキだった。
「俺と組めばすぐに東京のトップ取れますよ。見返りは求めないです。自分で貰う。」
「あ?」
「俺は自分を知っている。月は1人じゃ輝けない。」
漆黒の瞳はさらに濁った色を放ち、笑った稀咲の顔はまるで何かに執着している修羅のような顔をしていた。
そんな奇妙な出会いが稀咲と長内の出会いだった。
「気に入らねぇ奴は全部ボコして来たし、歯向かうやつなんていなかった。そしたらいつの間にか誰もいなくなった。そんな時だ。稀咲が俺に近寄ってきたのは.....」
「(あの稀咲が地味なガキ!?)」
「不思議なことに稀咲の言うことを聞いてたら、全て上手くいった。俺はたった1年でただの喧嘩だけが取り柄のバカから新宿を仕切る総長までのし上がったんだ。」
「1年で....」
長内から次々と告げられる事実にタケミチは言葉を失う。
知識や喧嘩の力を両方兼ね備えた多少のカリスマ性のある人間ならまだしも、それでもたった1年でトップに立つのは到底不可能に近いのに、喧嘩だけが取り柄のバカをわずか一年で新宿を仕切る総長にまで仕上げた稀咲の末恐ろしい頭脳にタケミチたちは思わず固唾を飲む。
「じゃあ長内君が愛美愛主の総長になれたのは稀咲がいたからって事ですか?」
「ああ。喧嘩の腕だけで人は纏められねぇよ。」
「なら、稀咲は長内君の腹心の部下ということになりますよね?」
「.....」
千冬からその問いを向けられた瞬間
長内は迷ったように口ごもると恐る恐る話す。