第12章 運命の天秤
卍 卍 卍
─────2003 8月13日
その日は夏真っ只中だと言うのに少し肌寒い日だった。
『お邪魔します。』
カランカランカラン....入り口に着いたベルが来訪者の知らせを店主へと運ぶ。
「いらっしゃいませー」と低く透き通った声が聞こえ、奥から店主が現れた。
「ってなんだ。リツカか」
長身の青年は小さなリツカの姿を瞳に移すとニッコリと笑う。
青年はまだ20代前半でスッと通った鼻筋に、切れ長の瞳と柔らかな唇。
パサついた髪は濡鴉を彷彿とさせる美しさに一目見れば、誰もが見惚れてしまうほどの美形の青年がリツカの来訪を歓迎した。
『夜分にごめんなさい。シン兄。今日実家に帰るって言ってたのに.....』
「いやいいよ。リツカ。それよりどうした?」
『家追い出されちゃって.....それと相談があるの。』
「.....そうか。取り敢えず店閉めてくるから2階に行ってろ。一人で大丈夫か?」
『うん。』
頷いたリツカに真一郎はにっこりと白い歯を見せながら笑うとくしゃくしゃと頭を撫でる。
真一郎に言われ【関係者以外立ち入り禁止】と書かれた扉のドアをひねり奥へと進んでいく。
そして2階へ続く階段を上がって扉を開くと、シングルサイズのベッドに小さなテレビと冷蔵庫、部屋の真ん中には広げられた簡素な机と控えめなソファが設置されている。
正しくひとり暮らしの男性の部屋が広がっていた。
『いっ.....』
いつまでも玄関に待っている訳には行かないので、ソファに腰掛けると腕にビリッとした痛みが走る。
咄嗟にその場所を見てみれば青い痣ができていた。