第10章 つかの間の幸せと絶望は死神とともに
『杏花、早く車から出よ!!』
「お姉....ちゃん....あのね伝えたい、事があるの」
『そんなの後でいいから!早く!この車だっていつ爆発するか分からない!早く逃げるよ』
「無理だよ....」
『え』
「もう....足の感覚がないの....」
そう言われ杏花の下半身に視線をつけると、潰れた下半身と割れたフロントガラスが突き刺さった腹部が見えていた。
見ただけでわかる致命傷だ。
それにお腹の子も......
『くっ....諦めないでよ!!まだ助かるかもしれない!ぜったい助けるから!私が絶対助けるから!!』
「無理だよ....私の、身体だもん....よく分かる....もう手遅れだよ....お腹の子も.....」
『っ....嫌だよ....っ!何で成功したはずじゃん!未来は変わったはずでしょ!なのに何で何で.....』
「お姉ちゃん....何言って....」
受け入れ難い現実は夢じゃないぞと告げるように火傷がじくじくと痛むのを感じた。
『〜〜っ!杏花!!』
「!?」
リツカは何かを決意するように下唇を噛むと、杏花の頭を優しく包み込んだ。
「え....」
『この先も今も昔も....ずっとずっと....私は杏花の味方だからっ!例え運命がそれを許さなくても私はずっと杏花の隣にいるからっ!』
「....嬉しい....やっとやっとお姉ちゃんの隣に入れるんだ。.....あのねお姉ちゃん....」
『何?』
「ごめんね。」
『え』
「私のせい、で。お姉ちゃんは、幸せになれなかった.....本当だったらお姉ちゃんは、今ごろマイ君と、幸せになるはずだったのに....でも、私も東堂も許せなかったの....これ以上お姉ちゃんが傷ついていくのが.....マイ君が選んだのは修羅の道、だったから....どうしても許せなかったの。」
『許す許すから死なないでっ.....杏花ぁ。』
「....ごめんね....お姉ちゃん。もう行って」
『ヤダ....』
「大切な人にまで死んで欲しくないの....だから...」
『ヤダよぉ....』
さらに力を込めるリツカに杏花は困った表情を浮かべる。
しかし、時は残酷で無慈悲だ。
杏花が乗っていた車のボンネットに火がつくのを見た杏花は意を決した。