第10章 つかの間の幸せと絶望は死神とともに
「カタギになって結構経つのにこの威力.....やっぱサツなだけあんな」
『(なんでそれを....いや、ともかく今は杏花が戻ってくる前にコイツをどうにかしないとっ.....)』
「お姉ちゃん....?」
『!?』
半間から距離を取ったリツカがバックの中の警棒に手をかけた瞬間
自分の背後からよく覚えのある声が聞こえて来る。
恐る恐る振り返ると、不安そうにハンカチを握りしめる杏花の姿があった。
「お姉ちゃん.....その人誰?」
「チッ。折角の再会なのによォ。邪魔者が来たなぁ。」
ニヤリと狂喜に満ちた笑顔を浮かべる半間を前にリツカがタラりと冷や汗を流す。
半間の事だ。何をするか分からない。
下手をすればその魔の手は杏花に及んでしまうだろう。
お腹の子にもしもの事があれば私はナオトに顔向けできなくなる。
『杏花、逃げろ。』
「えっ」
『いいから早く車に戻ってろ!』
「う、うん!」
「逃がさ────」
ゴンッ!!
リツカはバックから警棒を引き抜くと、杏花を守るように立ちはだかり、大きく振りかぶって警棒を半間に向かって振り下ろす。
しかし半間はすぐに反応して銀のアタッシュケースでガードした。
「って〜.....警棒とか卑怯じゃんかよ。ダリィ。」
ポトリ....と半間がくわえていたタバコが地面に落ち、それをリツカが思いっきり踏みつける。
『杏花に手を出すつもりなら私はアンタを許さない。これ以上稀咲鉄太(オマエら)に大切なものを奪われてたまるか。』
「ばは♡その眼を向けられるのあの日以来だなぁ」
『.......あの日?』
答えないリツカに半間はネクタイの結び目を緩めながら近寄る。
「あ?忘れたのか?」
『なんの事....』
リツカが訝しげに訪ねると半間は堪えきれないと言わんばかりにククッと声を漏らしながら笑いだした。