第10章 つかの間の幸せと絶望は死神とともに
「車乗ってねぇのかよ。ダリィ....」
『(何コイツ?独り言?)』
「まとめて殺っちまおうと思ってたのによォ。逃したってなれば絶ッ対ェアイツキレるよなぁ。報告すんのダリィ....」
リツカはまるで下から打ち上げられるように上を見上げると、スーツ姿に丸メガネをかけた長身の男がリツカを冷たい目で見下ろしていた。
『誰.....』
「ばは♡誰.....か。せっかく再会できたってのによォ。随分と冷たい言い方するなぁ。そんなにあのこと根に持ってんの?」
『貴方、何言って.....』
長身の男に視線を向けた瞬間
フワッとツンとした灰の匂いに混じった甘い匂いがリツカの鼻を掠めた。
『(この匂い。どこかで....)』
────ドクン
覚えがある甘い匂いにリツカの心臓が嫌な音をあげる。
恐る恐る男に視線を向けると紫煙をあげる煙草を持った手の甲には"罪"の刺青があった。
『(まさか!!)』
【一応今"仮"でメビウスを仕切ってる半間だ。】
【俺の可愛い天使チャン】
『半間.....修二っ!』
目の前の死神の名を口にして、リツカは目を見開くと慌てて男から距離を取ろうと立ち上がる。
「お?やっと思い出した?」
『っ!!』
身の危険を感じたリツカはすぐさま半間から距離を取ろうとかけ出すがすぐに腕を捕まれ、壁へと押し付けられた。
「何逃げようとしてんだよォ、可愛い可愛い俺の天使チャン?やぁーとみぃつけた♡もう逃がさねぇゾ。」
『っ!』
男が狂喜に満ちた笑みを浮かべた瞬間
ゾクッ!と背筋に冷たいものが走り、まるで首にナイフを突きつけられたような緊張感がリツカを襲う。
『離せっ!!』
「いーねその眼。やっぱそっち方が俺好み───っ!?」
リツカはグンッ!と体を捻ると裏拳で半間の頬を殴り、掴んでいた手から力が抜けた瞬間に半間から距離を取る。
拳をもろに受けた半間はツゥーと唇の端から血を流すと何が面白いのかくつくつと笑った。