第10章 つかの間の幸せと絶望は死神とともに
「さあ!行きましょうか。」
『うん....』
東堂に促され、部屋出ると長い廊下を歩いていく。
『それにしても杏花が母親か.....』
「驚きですよね。もう蒼葉姓ではなく橘姓なんですよ。寂しいような嬉しいようなです。」
『あはは!東堂おじいちゃんみたい』
「そりゃお嬢様たちが小さい時からこの家にいますからね。」
『小さい頃って言っても確かシン兄と同い年だったから....私が9歳の時からじゃん。』
「私や真ちゃんからしたら十分子供だったんですよ。」
『ふーん』
「そういえばお嬢様はいいお相手は見つかったのですか?」
『....私のことはどうでもいいでしょ.....』
「まだみたいですね....はぁ(やっぱりまだアイツの事を.....)」
『ちょっと何そのため息』
「いえ、世の中の男どもは見る目がないと思いましてね。こんなにも容姿端麗なお嬢様を放って置くなくて....まぁだからと言って変な奴が来たらボッコボコにしてやりますけど」
『何年経っても物騒だな。』
「何年経っても心配なんですよ。お嬢様は無茶ばかりしますから。」
『してるつもりはない、よ。』
「してますよ。今も昔もずっと.....ね。(あなたはずっと背伸びをしている。)」
東堂はそう言うと一室の前で立ち止まると、コンコンと控えめなノックを2回繰り返した。
「どうぞ」
扉の向こうからグモった声で懐かしいの声が聞こえる。
ガチャッ.....
ゆっくりと開かれる扉に緊張で心臓が痛いくらい鼓動をあげる。
開かれた扉の先にはロッキングチェアに座り、少し膨らんだお腹を優しく撫でている杏花の姿があった。