第10章 つかの間の幸せと絶望は死神とともに
『うん....帰ろ。私なんかがあの子にあっちゃダメだ。あの子が幸せならそれでいいんだから....』
腕に埋めていた顔を上げ、立ち上がった。
そして、来た時よりも少し重い足取りでその場を去ろうとした時だった。
ガチャンッ!!
固く閉ざされていた門が突然音を立てて開き始めた。
『!?』
緊張からかやけに音が鮮明に聞こえる。
開いていく門を前にゴクリと息を飲むと、懐かしい声と共に完全に開ききった門の向こうから少し歳をとった東堂がリツカを出迎えた。
「お帰りなさいませ。リツカお嬢様」
『.....東堂....』
「10年....いえ、12年振りですね。お元気になさっていましたか?」
『.....』
「話はナオト様から聞いています。さぁ、こちらに杏花様たちがお待ちになっていますよ。」
『.....』
本当は帰ろうとしていたなんて言えず、あまりの気まずさに東堂の顔から目を背けながらコクリと頷くと帰ろうとしていた足の踵を返し言われるまま家の中に入る。
そして通されたかつての自分の部屋でリツカは男性物のスーツから煌びやかなドレスへと着替えた。
ドレスは紺色が主体で胸と腕にレースがふんだんにあしらわれたブランド物だった。
一体何十万するのやら....
『部屋そのままなんだね。』
「ええ。杏花様がどうしてもと仰って、旦那様が残してくれたんです。」
『へぇ。意外。まさかあの人がね....てっきりもう物置なり何なりされてると思ってた。』
「12年....」
『ん?』
アッ君の手により綺麗に切り揃えられた髪の毛をアレンジしながら東堂が弱々しく呟く。
「12年見ない間に随分とお美しくなられましたね。」
『そんなことないよ。』
「いいえ。もう立派なレディーですよ。」
東堂はそう言って笑うとリツカの両肩に手を置き、頭を填めた。
「本当にご無事で何よりでした。お帰りなさいませ。お嬢様っ。」
『ただいま。東堂』
優しく東堂の手に自分の手を重ねる。
私はこの家から逃げた....
変わる前の未来では東堂は私が家を出た後直ぐに蒼葉家の執事を辞めたそうだ。
なのに今彼は変わらず蒼葉家で働いている微量ながらも変わった未来にリツカは笑みを零す。