第9章 8・3抗争
東堂はどこか楽しそうに言うと、クローゼットから和風っぽい服を引っ張り出してリツカに渡す。
そして今すぐ着替えてこい。とリツカを衣装ルームに放り込んだ。
『東堂こんな感じでいい?』
部屋から出てきたリツカはゆったりとした和風パーカーに身を包み、ハーフアップで中性的な見た目をしていた。
『ちょっと女の子っぽくない?』
「旦那様がいない今日ぐらいは可愛くなっても良くないですか?」
『あーそっかあの人今日から出張だっけ.....』
「ええ。」
『じゃあいっか!ありがとう東堂!』
「喜んでいただけて何よりです。ところでこんなにオシャレしてどこに行くおつもりですか?」
『あれ?言ってなかったけ。マイキーと武蔵祭りに行くんだよ。』
外していた指輪の着いたネックレスをつけながら、答えるが付け慣れないせいかなかなか金具が嵌ってくれない。
「はあっ!?そういう事は早く言ってくださいよ!!」
『え、何でそんなに驚くの.....てか、何で言わなきゃなの?』
「あ、いや。その....そ、そう、ですが.......」
言葉を濁しながら、戸惑った様子の東堂がリツカの手から金具を受け取ると付けてあげる。
『ありがとう、東堂。』
「いえ。───って!坊ちゃん!この傷なんですか!」
東堂は声を荒らげるとリツカの左腕を掴み、赤い傷跡の残る薬指を凝視する。
『ああ、これ?マイキーに噛まれちゃってさ.....』
「はあっ!?アイツは犬か何かですか?」
『強いて言うなら猛獣?』
「あのクソガキィ......うちの坊ちゃんをキズ物にしやがってぇ.....今度あったら覚えとけよォ!?」
黒いオーラを漂わせる東堂がチッ!!と盛大な舌打ちをする。
『と、東堂?怖いよ?そんなに怒らないでよ....(だってこれは私にとって大切な傷だから。)』
これはマイキーと私を繋ぐ傷。
だからどうしても憎むことが出来なかった。
むしろ愛おしいと思ってしまうのは惚れた弱みなのだろう。
愛おしそうな顔で傷を見つめるリツカに対し、東堂は辛そうな表情を浮かべるとリツカの背中に顔を埋めた。