第1章 ※笑顔の裏側
杏「その隊服については後でも良いだろう。……いや、本題に入る前に訊いてしまおうか。」
そう問われると清宮は口を開けたり閉じたりした後、情けなく眉尻を下げて顔を赤くさせたまま再び一筋の涙を流した。
「も、申し訳ありません。捨てるようにと言われていた物とはいえ杏寿郎さんの隊服で涙を拭うなんて…、」
杏「気丈な君が泣くことに備えて隊服をその形のまま取っておいたなど無理がある。」
そう言われると清宮はぐっと言葉を詰まらせて俯く。
杏寿郎は歩み寄ると 枕と隊服を抱き締めてどことなく幼くなってしまった妻にゆっくりと手を伸ばして安心させるようにそっと頭を撫でた。
すると再びぱたぱたと涙が落ち、清宮はずるずると壁に背を預けながらその場に座り込む。
杏「……俺は、君を傷付けてしまっているようだな。色々と事情は聞いているが君からはまだきちんと教えてもらっていない。君から伝えてくれないか。」
「…………事情を聞いている…ですか…?誰からです…?」
杏「一人しか居ないだろう。橋本 明夫だ。」
「そんな。…まさか。彼が漏らすはずありません。」
その言葉と共に清宮の涙はぴたりと止まる。
杏寿郎は清宮の明夫への信頼の強さを感じると眉を顰めた。
杏「彼を盲信しているのではないか。彼からは言葉以外でも様々な感情を送られ続けてきたぞ。君と婚約してからずっとだ。」
「……そんな………どうして…杏寿郎さんは何を知っているのですか…?」
どこまで知られているのか知りたくなった清宮が思わずそう聞くと、杏寿郎は少し眉を寄せながら清宮を見下ろした。