第1章 ※笑顔の裏側
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それから一月後、清宮の月経は見事に止まり あっと言う間に腹が膨れて元気な男の子が産まれた。
清宮は前線から退き陰から鬼殺隊を支えることにし、杏寿郎は清宮に沢山の藤の花の小物を贈った。
「こんなに持てませんよ。」
そう言って柔らかく笑う清宮を杏寿郎は心配そうに見下ろす。
杏「一つでも多い方が良いだろう。必ず持っていてくれ。」
隠の作業部屋の前でそんなやり取りをしていると清宮の仕事仲間の隠が近付いてきた。
すると清宮の表情は魔法の様に澄ました笑顔になる。
杏寿郎はもうその笑顔の下の清宮を知っている。
どういった時にそれを見せるのか、そして仮面を取ってくれる事がどれだけ大きい事なのかを知っている。
杏(初日から素顔を見る事が出来た俺は本当に愛されているのだろう。)
杏寿郎は隠が過ぎ去った途端に柔らかくなった清宮の空気に触れるかのように腕を伸ばし、長い髪を梳いた。
杏「……では、母子共々良い子で待っているのだぞ。」
それに返事をする清宮と我が子を撫でると杏寿郎は炎柱の羽織りをはためかせて建物を出て行く。
そして "妻子を愛でる夫の顔" から "妻子の為に戦う夫の顔" になると左手を鍔に遣りながら走り出した。
杏(今夜も勝ち、守り抜き、……そして必ず生きて帰ろう。)
おしまい。