第1章 ※笑顔の裏側
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明夫との短い会話をした任務が終わり、久しぶりに杏寿郎の屋敷へ帰ると 数日の間噂をたくさん聞く羽目になっていた清宮は張っていた糸がぷつりと切れてしまいそうになり、『少し失礼します。』と言って寝室から出ていってしまった。
そう言って出て行った清宮が戻ってこないことは今までの経験で知っている。
杏(ここで寝ないのなら…、)
杏寿郎は思い切って清宮が何かあると閉じ篭もる清宮の自室へと向かった。
するとすすり泣く清宮の声が聞こえる。
杏(…………………………。)
杏寿郎は泣かせているのは自分なのだろうと顔を顰めつつ、迷いに迷った挙句『いずれにせよこのままでは必ず駄目になる』と思い、戸を開けた。
―――タンッ
「…………………………え……?」
部屋の中では『捨てておいてくれ』と頼んだ筈の破けた隊服を抱いた清宮が泣いて目を赤くさせている。
杏「君……、それは、捨てるようにと…。」
「隊服はすぐに乾くので涙を拭くのに丁度良いのです!」
そう言う割に涙は拭えておらず、頬を濡らしてしまっている。
杏「流石にその言い訳は苦しいぞ。」
杏寿郎は何かまだ把握していない事があるのだと悟るとそれが二人の重大な問題に関係あるか無いかに関わらず全てはっきりさせようとして部屋に入った。
すると清宮は得意の余裕を持った態度を忘れ、慌てて掛け布団と何故か枕も抱えて部屋の端まで後退る。
その腕の中にはもちろん杏寿郎の隊服もある。