第1章 ※笑顔の裏側
杏「君は俺と清宮さんが夫婦である事を知っているだろう。何故手を出した。」
"夫婦" という言葉を聞いて明夫は顔を顰めた。
明「愛の無い形ばかりの結婚だと聞いています。あなたが彼女に望んだのは子供のみだと。」
杏「………何を…、」
そう呟きながらも清宮に対して随分と貪欲になってしまっていた自身を改めて自覚した杏寿郎は自身が見合いの席で放った言葉を酷く後悔した。
明「子供のみを求めるなど彼女を蔑ろにし軽んじる行為です。傷付いた心を他で慰めるのはそれ程までに罪深いことなのでしょうか。」
そう噛み付きそうな顔で詰め寄られると杏寿郎は珍しく言葉を詰まらせて目を見開いたまま黙ってしまった。
杏(そうではない。俺が夫として至らないと思ったんだ。いつ命を落とすか分からない俺が清宮さんには多くを求めてはならないと…。)
明「この状況を打破できないようなら俺は諦めるつもりはありません。例え柱の妻になろうとも、身分が違おうとも。」
杏「……俺だって諦めるつもりなどさらさら無い。」
ぽつりと彼らしくなく呟かれた言葉に明夫は少し目を大きくさせた後 眉尻を下げて苦しそうな顔をした。
明(その願いは簡単に叶う。俺の願いとは違って。あなたがきちんと向き合いさえすれば馬鹿馬鹿しいほど簡単に…。)