第1章 ※笑顔の裏側
―――――
杏(……またあの男か。俺の前でよくも堂々と…。いや、わざとだろうか。)
久しぶりに清宮と任務が重なった明夫は清宮から相談を受け、杏寿郎に牽制の目を向けながら近過ぎる距離で清宮を慰めていた。
杏(あんな顔で何を話しているんだ。)
そう気になりだせば止まらない。
杏寿郎は明夫が目を逸らした隙に木陰に隠れ、腕を組みながら二人の背後に回り込んだ。
明「じゃあ…、お前はどうしたいんだよ。」
いきなり重要な質問を聞き、杏寿郎の心臓が跳ねる。
そして、心の準備をする前に残酷とも言える程早く 清宮は口を開いた。
「早く子供を産んで……離縁してしまいたい。」
杏(……………………………………。)
杏寿郎はいざはっきりと言葉にされるとあまりの衝撃に目を見開き、口を薄く開いたまま固まってしまった。
明「子供って……、産んだ後に離縁なんて出来るのかよ。それに子供が女だった場合は……、」
「…………そんなこと、言わないでよ…。」
杏寿郎は清宮が隣の明夫を見上げた後 辛そうに顔を歪めたのを確認するとそのままその場を立ち去る。
まだ明夫から自身に目を向けさせる時間は残されていると思っていた。
だが―――、
杏(このままでは心中してしまうのではないのか。)
この時代、男女の心中は珍しくない。
親が見合いで結婚相手を決める世界で唯一好き合う者同士が一緒になれる方法であったからだ。
そう思うと杏寿郎はグッと拳を握る。
杏(させない。逃さないぞ。)
燃える瞳と共に決意すると杏寿郎はその夜共に戦う隊士達を集めた。