第1章 ※笑顔の裏側
杏「……何故泣く。」
そう問うと、息が上がり冷静さを欠いていた清宮は呆気無く口を開く。
「それ……言うの、止めてください…………つらいです。」
震える声で伝えられた言葉は杏寿郎の心を抉った。
それでもなんとか冷静さを保つよう努め、無表情で清宮を見下ろす。
杏「……駄目だ。現実から目を逸らすな。」
「お願いです、これ以上言わないでください。これ以上言われると……、近くに居る事自体にも耐えられそうにありま、」
清宮がそう言い掛けた所で杏寿郎は清宮の口をパシッと塞いだ。
そして信じられないものを見るような目で清宮を見る。
杏「駄目だ、離縁などさせないぞ。……君にはやるべき事があるだろう。」
そう言われると清宮は目を瞑り、再び涙を流して体を揺すられた。
杏寿郎は『やるべき事』について指摘したにも関わらず まだ夫婦だけの時間を味わいたいと思うようになってしまっていた為に子種をわざと清宮の外へ出した。
杏「ああ、つい間違えて外に出してしまった。」
「……先に寝ていて下さい。一人で出来ますので。」
事後の甘い会話どころかそれ以外何も言わずに清宮はよろよろとしながら部屋を出て身を清めに行ってしまった。
そして、杏寿郎がいくら待ってもその晩は夫婦の部屋に帰ってこなかったのであった。