第1章 ※笑顔の裏側
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杏「他に慕う男がいる女性が好きでもない男に抱かれて良さそうにする時、そこにはどういった理由があるのだろうか。」
そう問い掛けた相手は同僚の宇髄 天元だ。
大男の天元はそれを聞くと興味なさそうに自身の爪を見ながら口を開く。
天「さあな。その慕っている男とやらに抱かれてる想像でもしてんじゃねぇの?」
その言葉に杏寿郎は目を見開いて拳を握った。
「………………それは許し難いな。」
杏寿郎の低く荒っぽい声を初めて聞いた天元はぎょっとしながら杏寿郎に視線を移す。
すると杏寿郎は真顔からパッといつもの笑顔に切り替えて天元を見上げた。
杏「どうもありがとう!とても参考になった!!では失礼する!!」
天「あ、ちょっ……、」
不穏な色の瞳の訳を訊こうとしていた天元は杏寿郎がずんずんとその場を後に歩いていってしまうのを見ると頭を掻きながら溜息をつく。
そして知らなかった同僚の顔を思い出して目を細め、顎に手を遣った。
天(…………………あいつ女抱いたことあんのか。)
そんな失礼な事を思いながらも興味が湧いた天元はその後も相談に乗ろうと決めたのであった。
一方、天元に穏やかではない憶測を吹き込まれた杏寿郎はその夜 清宮を抱きながら何度も『君が今何をしているのか、よく意識してくれ。』と繰り返した。
今清宮を抱いているのは自身なのだと教え込むように何度も何度も繰り返した。
すると、いつもは良い反応をする清宮が甘い声を一切上げず、それどころか途中から腕で顔を覆いながら泣きだしてしまった。