第1章 ※笑顔の裏側
「噂が流れ始めてからもう随分と経つのに何で消えないか知ってる…?」
久しぶりの合同任務で明夫は痩せた清宮に驚いていた。
明「……何でだよ。」
「杏寿郎さんがああして毎夜惚気けるからよ…。」
清宮が視線を遣った先で杏寿郎は他の隊士と話している。
清宮はそれを聞きたくなくて離れているのだ。
明(相手はお前だろ。)
明「お前何考えてんだよ。そんなの…、」
そう言いかけて明夫はピタッと止まる。
そして自身の中に決して認めてはいけない感情を見付けると眉を顰めて酷い自己嫌悪に陥った。
明(こいつを女として見ちゃだめだ。約束しただろ。早く誤解を解いてやらねぇと…。)
「そんなの、何?」
清宮に続きを急かされると明夫はハッとして顔を上げる。
そして揺れる瞳で清宮の信頼しきった顔を見つめると喉をこくりと鳴らした。
明「…いや……、家で話し合えば良いだろ……それかもういっその事 夫婦だって噂を広めるとかよ…。」
「そんな…どっちも無理よ。杏寿郎さんに面と向かって『好いている女性がいる』だなんて言われたら私、心臓が止まってしまいそうだもの。夫婦だって私の方から言うのも……出来る筈がないじゃない。」
明「…………。」
清宮の言う事も尤もだった為 明夫はどこかでほっとしながら息をつく。
そして自身が安堵している事に気が付くと目の前の暗い表情を浮かべる清宮に目を遣って拳をきつく握った。