第1章 ※笑顔の裏側
「い、今のは……、今の行動には…深い訳がありまして…、ただ転んだのではなく、」
杏「どうみても立派に転げていたぞ。おいで、俺が運ぼう。」
杏寿郎に横抱きにされると清宮は体の近さから再び顔を赤らめる。
清宮が余裕を失くす姿を何度も見る事が出来た杏寿郎は満面の笑みで寝室へ向かった。
杏「驚かせた挙句笑ってすまなかった。」
「…………第一、先に寝ていて下さいと言った筈です……。」
普段澄ましているとは思えない恨めしそうな声がこんもりと丸くなった布団から聞こえてくる。
その布団を見て杏寿郎は再び笑い声を上げた。
杏「そのような声色をだそうとも姿がそれでは全く迫力が無いぞ!!」
「……………………。」
(杏寿郎さんは歯に衣着せぬ言い方を度々するお方だな…。)
そう思いながらも清宮は大人しく布団から出てくる。
そして杏寿郎をじとっとした目で見つめた。
「第一、先に寝ていて下さいと言った筈です。」
同じ事を冷たい声色で言われると杏寿郎の笑みが固まる。
杏(先程までは愛らしかったというのに…こうなるとなかなかの迫力があるな。)
杏「それについてはすまなかった。君の珍しい姿を見て聞き流してしまっていたようだ。」
「珍しい…?」
杏「君が余裕無く慌てふためく姿だ。ああなると君は大変愉快な事をするだろう。」
「……え、ぁ……………。」
未だに隠せていると思っていた清宮は呆気無く眉尻を下げ、再び掛け布団を被ると杏寿郎に背を向けてしまった。
杏「よもや…。」
こうして初の夫婦の営みは中途半端に終わり、そして杏寿郎の清宮に対する興味は更に大きくなったのであった。