第1章 ※笑顔の裏側
千「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。弟の千寿郎と申します。」
「こちらこそ…お兄様と婚約させて頂いた彩 清宮と申します。どうぞよろしくお願い致します。」
杏寿郎は深々と頭を下げ合う二人を大きな目でじっと観察した後 両者の肩をぽんと叩いた。
杏「そう堅苦しくしなくても良いだろう!弟、姉のように接してくれると俺は嬉しい!!」
その言葉に兄ばかりで下に兄弟の居ない清宮は頬を緩めて千寿郎に微笑みかける。
「では…、よろしくね、千寿郎くん。」
千「は、はい!……姉、上…。」
清宮が呆気無く柔らかい表情を晒すとそのギャップから千寿郎は頬を染め、杏寿郎は『よもや。』と呟いたのであった。
杏「君は…先程の表情に自覚はあるのだろうか。」
「……表情?」
杏「いや、心当たりが無いのなら良い。……ここだ。」
そう言って杏寿郎が示した部屋にはここの屋敷の主、槇寿郎がいる。
清宮は話が進んでしまった後に漸く挨拶に来た為 緊張から喉をこくりと鳴らした。
そんな清宮の肩に杏寿郎はぽんと大きな手を乗せる。
杏「大丈夫だ。父上は………すぐに許しを下さるだろう。そう身構えなくとも、」
槇「何をしている。」
唐突に部屋の中から聞こえた低い声が 杏寿郎によって落ち着きを取り戻していた清宮の心臓を再び忙しなくさせた。
杏「ご報告があり参りました。お開けしてもよろしいでしょうか。」
清宮は部屋の中から聞こえた低く不機嫌そうな声色を聞いて 親子関係が思ったよりも悪く、そして杏寿郎がその絶望的な関係に対して大き過ぎる希望を抱いてしまっている事を知った。