第17章 Last chance
「…やっぱお前すげえよ。」
『…』
「伊織は強い…」
私の胸中なんで知る由もない万次郎は続けてそう言う
強い、か…
…未来でもよく言ってたな
─強い奴が好きだった
─どれだけ負けても折れないような、強い奴が
ついぞそんな人に彼は出会えなかった
自分の手で仲間を手折り、1人になった彼を支える強い人は現れなかった
─少なくとも、私ではなかった
「伊織は強いから、逃げたことがない。
だから怖いんだと思う。」
『…』
違うよ、万次郎…
私が強いわけでも、万次郎が弱いわけでもない
私たちは2人とも弱かった
弱かったから、あんな風になったんだ
2人とも、それに気づけなかったから…
頭の中でそう言っても、扉の向こうの万次郎に聞こえるはずもなくて、彼はそのまま言葉を紡ぐ
「伊織、逃げることはさ、怖くねえよ」
『…』
「俺はいつも逃げてる…伊織やケンチン達がそれを許してくれるから…俺は逃げられる。
…だからさ、今度は伊織が逃げろよ。」
『…』
「今度は俺がその分頑張るから。
大丈夫。
逃げたことない分不安で怖いかもしれないけど、俺がなんとかするから。
…いつも伊織がしてくれるみたいに。」
『…』
「俺に全部任せろ」
わからない…
万次郎の言っている意味が、まるでわからない
貴方はどんな顔でそう言っているの?
貴方から見た私は、どんな風に見えているの?