第10章 Betrayal
「…家族を、、、妹と弟を殺したいと思うはずがないだろう…」
『…そうですか』
そのことばを聞いて、私はひとつ息をついた
『では大寿さん、覚えておいて下さい。
貴方は今まで運が良かっただけであるということを。
神に願う前にお礼を言っておくことですね。』
「あ?」
『…例えば貴方が柚葉の右腹を先ほど私に振り抜いたのと同じ力で殴ったとします。
…そうしていたら、彼女は肝臓破裂で死んでいたかも知れません。』
「…」
『実際、ボクサーがそうして亡くなっています。
グローブをつけていて、プロ同士でその結果です。
…貴方のような力のある人間が素手で柚葉に同じことをやるとどうなるのか、お分かりですね?』
大寿は黙って私の話に耳を傾ける
『他にも、人の体には簡単に命を奪ってしまうような場所がいくつもあります。
…良かったですね、今までそこに当たらなくて。
当たっていれば貴方は殺したくもない家族を殺している所でした。』
「…加減は、していた」
『へぇ、貴方はどの程度まで力を制御していれば大丈夫だということが分かるんですか。
場所にもよるというのに』
「大事にならない程度という意味だ…!」
『貴方は医者ですか?』
「!」
思わず本音が出る
無意識に一段と冷たい声を発した私を大寿は一瞬目を見開いてみた
『目に見える傷だけじゃない。
内出血や気胸、骨折、臓器の損傷…医者だってレントゲンなんかの機械を使って診断するのに、貴方にはそれがわかると?
交通事故だって、その日は普通に過ごせても数日後に急に亡くなることもあるというのに?』
「…」
『…大事かどうか、重傷かどうか判断するのは貴方ではありません。
それに、相手を本気で殺したくないと思いながら拳を掲げる。
それならこれくらい考えて、起こりうるリスクを理解したうえでそうして下さい。
その…私のような部外者には理解できない理由?のために。』
そう言い残すと、今度こそ私は部屋を出て帰路についた。