第51章 占い学
トレローニー先生は空いていた肘掛け椅子にどっかりと腰を下ろし、飾り立てた手を胸に当て、目を閉じた。
「おお----可哀想な子----いいえ----言わないほうがよろしいわ----ええ----お聞きにならないでちょうだい----」
「先生、どういうことですか?」と、ディーン・トーマスがすかさず訊いた。
ミラは椅子にもたれたまま動かずにいた。教室の他の生徒たちはざわつきながら立ち上がり、ハリーとロンのテーブルへとゆっくり集まっていく。ハリーのカップを見ようと、トレローニー先生の椅子の周りに押し寄せていたが、ミラは一歩も動かなかった。ただ、目を細めて先生の様子を観察していた。
「まあ、あなた」と、トレローニー先生がわざとらしく目を見開く。
「あなたには、《グリム》が取り憑いています」
「何がですって?」
と、ハリーの声が教室に響いた。
ミラは眉をひそめた。《グリム》? 何の話? 聞いたことのない単語だった。
周囲の生徒たちは驚いたように息をのんだり、手で口元を押さえたりしている。まるで何か恐ろしいことを告げられたみたいな反応。でも、ミラにはさっぱり意味が分からない。
「《グリム》、あなた、死神犬ですよ!」
と、トレローニー先生はさらに煽るように言った。その口調は、ハリーが理解していないことに心底驚いているようだった。“死神犬”。言葉の響きは不気味だけれど、それが何を意味するのかまでは想像がつかない。
「墓場に現れる巨大な死神犬です! 可哀想な子。これは----不吉な予兆----大凶の前兆----死の予告です!」
その言葉を聞いた瞬間、ミラの頭に、漏れ鍋で犬を見たと話したハリーの言葉を思い出した。ほんの一瞬だけ、不安が胸をかすめる。まさか、とは思いつつも、自然とハリーの顔を見てしまう。ハリーの顔は気分が良くなさそうに見えた。
ミラは思わず椅子を引いて立ち上がった。
「馬鹿馬鹿しい」
と、はっきり言った。自分でも少し声が大きくなったと思ったが、止めなかった。