第52章 ヒッポグリフ
去年のクィディッチの暴れ玉、ブラッジャーの比じゃないと一瞬で理解した。生きた生物に向けて魔力を全開にして使うのは初めてのことだったが、ヒッポグリフの巨体をとどめて置けるほど、長く持たないとわかった。キーンと強い耳鳴りが聞こえだし、早くハグリッドが来てくれと願った。
そこへ、視界が一気に暗くなった----いや、漆黒の羽を持ったヒッポグリフ、サーブルがミラとバックビークの間に割り込み、バックビークに強く威嚇の声をあげていた。ようやくハグリッドがバックビークに首輪をかけて遠ざけていると、背後でドラコが喚きだした。
「死んじゃう!僕、死んじゃう。見ろ!あいつ、僕を殺そうとした!」
「そんな傷で死ぬもんか」
ミラは疲労感に襲われながらも、ドラコに振り返って膝をついた。ドラコの腕を見ると、深々と長い裂け目があるのが嫌でも目に入った。ミラはポケットから杖を取り出すと、自身の左腕のローブに杖を当てた。
「ディフェンド(裂けろ)」
ビリビリとローブだけが裂け、腕から抜き取ると、更に裂いて、一枚の大きな布になった。それを慎重にドラコの怪我をした腕に巻いていくと、ドラコはまた喚き出した。
「痛い!もっと優しくしろ!」
なるべく傷に響かないように巻いたが、あまりにもドラコがうるさいので、最後は少しだけ強めに巻いてやった。
「ハグリッド!早く!」
ハーマイオニーが、バックビークを鎖につなげたハグリッドをせかしながら連れて来てくれた。ハグリッドはドラコを軽々と抱え上げると、ハーマイオニーがすでに走ってゲートを開けていた。そしてそのまま、ハグリッドはドラコを抱えて城へ向かって、坂を駆け上がって行った。
はぁ、とミラは力が抜けてその場に座り込んだ。
「ミラ、大丈夫!?」
ハリーとロンが心配そうに声をかけてくれた。
「鼻血が----」
「あー…うん、大丈夫、ちょっと疲れたけど----大丈夫」