第49章 吸魂鬼(ディメンター)
「----もう行ったから離れろ」
ミラは顔を顰めながら相手に言うと、相手もようやくディメンターが去った事を理解したのか、ゆっくりと顔をあげるのが暗闇でもわかった。すると、真っ暗で何も見えなかったのが、コンパートメントにパッと灯りがついた。突然明かりが付いたせいで、一瞬ミラは目が眩んだ。「うっ」と、あちこちからも声が聞こえ、ミラは目を細めて目の前の相手にピントを合わせていくと、よく知った顔がそこにはあった。
「…なんだ、ドラコか」
「----は?」
ドラコは自分の名前を呼ばれたことに驚き、目を大きく開いてミラを見ていた。どこまで大きく開くのだろうかと薄いグレーの瞳を見つめていると、急にドラコは焦ったように窓に両手をついてミラから距離を取ろうとした。
「お前、血がっ…!----おい!クラッブ!ゴイル!さっさと退け!」
ドラコの後ろには、ドラコより体の大きいクラッブとゴイルがいた。どうりで重たかった訳だと、ミラも早く退いてくれと非難の視線を二人に送った。やっと二人が後ろに下がったことでドラコも離れると、ようやくミラは解放された。
「そ、その血はなんだ!」
「?」
ドラコはまるで怖いものを見るかのような目でミラを見ていた。ドラコの声でコンパートメントにいた全員がミラに視線を向けた。
「血だ…鼻から出てる」
と、ジョージが指摘してくれたおかげで、ミラは鼻の下を触ってみるとべっとりと指に血がついた。
「お前が勢いよく入ってきてミラぶつかったんだ」
「ミラ、大丈夫か?」
「うん、押さえておけばその内止まるさ」
「とりあえずこれ使って」
フレッドが棚に積み上げてあった自分のカバンからタオルを出し、それをミラに渡した。
「今朝母さんが無理矢理入れてきたんだけど、早速役に立ったな」
「頭が上がらないな」
もらったタオルで鼻を押さえていると、気まずそうにしているドラコに気が付いた。ドラコはしばらくミラを見つめていたが、気まずそうに目をそらした。