• テキストサイズ

【HP】怪鳥の子

第54章 死にたがりの囁き


(ああ、失敗した。これじゃあ余計にハリーに心配をかける…)

 ミラは俯いたまま、黙々と廊下を歩き続けた。しかし、これ以上トムのことについて触れてほしくないとも思っていた。絶対にハリーには自分が孤児院の院長に磔の呪いをかけて苦しめてやりたいなんて、知られたくなかった。ハリーが叔父と叔母、そしてその従兄弟のダドリーを憎んでいることもわかっている。

 それでもハリーならしないと、ミラは思った。だってハリーは優しいから。同じように憎しみを知っている----それでも誰かを許そうとする。守ろうとする。

(私には、ハリーみたいな優しさはない)

 そう思うと、胸の奥で何かが軋んだ。

 力がなければ、何も守れない。何も変えられない。

 ミス・メアリーの顔を思い出すたびに、あの呪文の響きが舌先に蘇る。

(今まで苦しめられたんだから、アイツも苦しむべきなんだ----ああ、でもあの呪文を使ったら、ハリーは、ハーマイオニーは、ロンは…どう思うんだろう。ただ『苦しませる』ための魔法----どれだけ苦しませれるのか)

 ジワリ、ジワリと、自分の心が少しずつ黒に染まっていく気がした。

 思考の途中で、ふと風の音がした。顔を上げると、いつの間にか湖の近くに来ていた。近くの木陰の下で止まると、木々の隙間から光がこぼれ、芝生が黄金色に輝いている。

 草の上にそっと腰を下ろすと、膝に手を置いて、長く息を吐いた。どこか遠くで鳥の声がした。

 それなのに、世界は静まり返っているように感じた。

「……何をやってるんだろ、私」

 小さく呟く声が風に溶け、ミラはただ、俯いたまま、ひとり空を見上げた。淡い雲が流れていく。
 それをぼんやりと見つめながら、もう一度深く、ため息を吐いた。
/ 745ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp