第47章 擬態紙
ヒルダの前まで来ると、ミラは怒りでヒルダの頭を掴んで、思いきり机にぶつけたいと思った。いつもうねって所々絡まっていた金色の髪が、今はサラサラと綺麗に揃っている。
「あら、何か御用?」
と、わざとらしくも聞こえるヒルダの声に、ミラは眉間に皺を寄せた。
「今日の掃除はもう終わったのかしら?さっき廊下を歩いた時、埃がいっぱいあったわよ。ちゃんと掃除してるの?」
「や、やめなよヒルダ…その子と関わらない方が…」
ヒルダの向かいに座っていた女の子が、ヒソヒソとヒルダに声をかけた。女の子は、一刻もここから去りたいという顔をしていた。氷のように冷たい眼差しでヒルダを見下ろしているミラの姿は威圧感があり、自分にも被害が及ぶかもしれないと思うと、女の子は静かに口を閉じた。
「ちょっと、アンタがいるとみんな迷惑しているわ。さっさとどこかに行ってくれない?辛気臭いのがうつっちゃう」
「----言いたいことはそれだけか?」
「は?」
仄暗い、冷たい目がヒルダの目を刺すように見ていた。
「いくら髪の毛が綺麗になっても、内側は肥溜めだな」
カッとヒルダの白い頬が赤くなり、ヒルダは席から立ち上がった。
「ちょっと!私に喧嘩を売ってるの?自分が惨めだからって、私に八つ当たりしないでほしいわ!」
「…売ってきたのはそっちだ」
今にも一触即発しそうな空気に、あたりはシンとなった。数秒ミラとヒルダは睨み合った後、ミラは先にヒルダに背を向けて歩き出した。
「ちょっと!逃げる気!」
後ろから犬のようにワンワン吠えるヒルダを後に、ミラは食堂から出て行った。ヒルダはなんて後味の悪い、そして気味が悪いのだろうと思った。
「気持ち悪い子!せっかく楽しく話してたのに、全部台無しだわ!」
「ヒルダ…あの子に何かしたの?やめた方がいいよ」
「前の学校で、男の子たちと喧嘩して負けたことがないんだって…男の子たちも怖がってたわ…」
未だに青い顔をしている女の子たちが、ヒルダに目も合わせずにポロポロと話し出した。