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【HP】怪鳥の子

第44章 死の覚悟


「な、んで…っ、インセンディオ!」

 ミラは同じ呪文を『日記』に当てた。ゴオゴオと熱い炎が『日記』を包み込み、燃やそうとしているのに、炎が『日記』に吸い込まれるように、炎は綺麗さっぱり消えて無くなってしまった。

「そんな魔法じゃ、僕の『日記』は燃やせない。否、君ごときじゃ無理なことなんだ」

 トムは軽く杖を振ると、ミラに直撃した。体が後ろへ吹き飛ばされる感覚がすると思った頃には、ミラは激しく地面に体を打ちつけた。顔だけを上げると、顔の横を何かが流れるような感覚がした。ポタリ、と赤い液体がミラの顔から滴った。

「中々の演技だったろう?君は思っちゃいけなかった、僕に勝てるなんて」
「っ…ぅ…デパ、」

 呪文を言い切る前に、トムの魔法が当たった。ミラはまた後ろへ吹き飛んだ。持っていた杖もパッと手から飛び出すように、トムの元へ飛んでいってしまった。トムはミラの杖をキャッチすると、自分の上衣のポケットに仕舞った。

 ミラは立ち上がろうとしたが、フラフラする頭では立ち上がることもできず、四つん這いでその場に留まるので精一杯だった。おまけに杖を取り上げられ、もうどうする事も出来ないことに怒りが込み上げてきた。結局、呪文が一つも当たることもなかった。『日記』を燃やせば終わると思っていたのに、完全に油断してしまった。

 コツ、コツとローファーシューズが歩くたびに響く音に、トムが自分に近付いて来ている事に気が付いたものの、ミラは動かず、ポタポタ垂れて地面に大きな水溜まりを作っていく自分の赤い血を見下ろしていた。
 目と鼻の先でトムは止まった。

「無駄な足掻きだっただろう?こんなことをしなくても、君の魂の半分以上は僕が握っているというのに」

 滑稽だ、とトムは言わなかったが、ミラにはそう言っているように聞こえた。ミラは「ハハッ」と力なくだが、笑い声を漏らした。トムは冷たい目でミラを見下ろした。

「最初から従順の方がアンタの好みってわけ?---反吐が出そう」
「…ミラ、君はどうあっても僕に着く気はないみたいだ。目をかけてやったというのに、失望したよ」

 トムはミラに杖を向けた。
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