第44章 死の覚悟
ミラはいくつかの呪文をトムに向けて叫びながら、全速力でジニーの元へ向かった。赤い光線が飛んでくる中、ミラは死に物狂いでその場所を目指した。髪や服を呪文がかすろうが、気にも止めずにただ走った。トムも急に走り出したミラに、次は何をするつもりだと目で追っていたが、ミラの走る先にあるものがあることに気が付いた。
ジニーの側に落ちていた『日記』を掻っ攫うように拾い上げると、ミラはその『日記』をトムに見えるように突き出して杖を当てた。
「ハァ、ハァ、トム…私の勝ちだ」
「待つんだ、ミラ。そんなことをしたら…」
ようやく、トムの余裕の表情が消えた。ミラはニヤリと笑うと、勝利を確信した。
「前にも燃やそうとした時に焦ってたのを思い出した…そうだ、アンタの本体はこの『日記』だ----これさえ無ければ、ジニーは助かる」
「やめたほうがいい、ミラ…後悔するぞ」
スッと目を細めたトムは、どう見ても焦っているように見えた。やっぱりこの日記を燃やされては困るのだ。ミラは『日記』を離すと、日記は重力に逆らわずに下へ落ちていく。
「インセンディオ」
ミラの杖から出た赤い光線が『日記』に直撃すると、『日記』は赤い炎に包まれた。
「うわああああああああああああああああ!!!」
と、トムがその場で苦しみ始めた。
やった、やったんだと、ミラは頭を抱えて座り込んだトムを見て思った。ああ、これでジニーは助かる。悪夢は終わったんだと確信した。
「……フフフ」
「!」
突然、トムが笑い出した。ミラはハッとトムを見張った。まだ気を緩めるべきではなかったと思っていると、トムはおかしそうに、見下すようにミラを見ていた。
「まったく、容赦ないな君は。やめておけと注意したのに」
トムは何事もなく立ち上がった。まるで痛みなど一つも感じていない様子に、ミラは先ほどまで感じていた高揚感が無くなった。『日記』を見ると、燃え盛っていた『日記』の炎は段々小さくなり、焦げ一つ残さずにその場に落ちていた。