第44章 死の覚悟
「なんで、歳を取ってない…?」
「記憶だよ。僕はその『日記』の中に、五十年間残されていた記憶だ----君たちが知らずに僕の日記に書き続けたことによって、自分たちの魂を僕に注ぎ込んでくれたんだ」
ガツン、とミラはまるで巨大な石で頭を殴られたような気がした。トムは心底可笑しそうな、でも気分がいいのか笑みを浮かべていた。
「ほとんどはそこのジニー・ウィーズリーのおかげさ。彼女は君よりも馬鹿馬鹿しい心配事や悩みを何ヶ月も書き続けた。本当にうんざりだったよ、十一歳の小娘のたわいもない悩み事を聞いてあげるのは----でも、予想外だったのは、君たちが交換日記をしたことだ。君はジニーと違って用心深かった。心は中々開いてくれない上に、あまり僕に関心がなかった。でも----」
トムはジッとミラを見下ろしていた。
「君の境遇はジニーが教えてくれたよ。君に聞かなくても知っていた。でも、君のあの時の喜びようと言ったら」
フフ、と何がおかしいのか、トムは笑うことを堪えようとしていた。
「ああ、勘違いしないでほしい。マグルの孤児院で育ったことは本当だ。同情もしてるよ。君がどれだけそこの孤児院のマグルたちを嫌ってるか、僕にはわかる。酷く恨んでることも、全てを書かなくても伝わってきたよ」
「…どうして、私に日記を書かせた?」
「興味があったからさ」
と、自分を見つめてくるトムにゾッと背筋を凍らせた。
「僕と同じような境遇でありながら、君はスリザリンに入らなかった。それなのに、あのドラコ・マルフォイという純血の小僧とは縁を切ろうとしなかった。特に、仲直りができた時の君の話しは中々可愛げがあると思ったよ」
ミラはトムを睨みつけたが、なんの効果もなかった。
「本当は君を『継承者』にしたかった。でも、試しに君に僕の魂を注いだ日、君は自分の力で僕を跳ね除けた」
「----ハロウィーンの日」
あの時の頭痛は、今日受けた頭痛に似ていた。まさかもうその時からトムの魔の手があったことに寒気を感じたが、自分が受け入れなかったせいでジニーが『継承者』に選ばれてしまった。
ミラはトムに杖を向けると、トムは顔色一つ変わらない。むしろ余裕さえ見えて、末恐ろしさを感じる。