第44章 死の覚悟
ギリッ、とミラは歯を噛み締めた。ジニーの姿で何事もなかったのように語るトムに、ミラは憎しみを込めた目で睨みつけた。コイツだけは許してはならないと、心が訴えかけていた。
まずはこれからどうやってジニーを助け出すかと、ミラは考えていた。もうここにはドラコもいない。ジニーを抜けば、トムと二人きりになれた。どこからバジリスクが現れるのか分からなかったが、チャンスを見てジニーを助け出すしかないと思った時、トムが力なくその場に倒れ込んだ。
「ジニー!」
ミラは慌てて駆け寄った。仰向けに倒れたジニーをひっくり返すと、ジニーは泣いていた。『日記』はジニーのすぐ近くに転がっていた。
「----ミラ…ごめんなさい、ごめんなさいっ----わたしなの……私が…」
ジニーは体に力が入らないのか、起き上がる気配がなかった。瞳からたくさんの涙が溢れて、自分がこれまでやってきたことに嘆いているようだった。
「わたしがみんなを、石に…それに、わたし…ここで……」
「ジニー…?ジニー、目を開けて!」
必死に揺さぶっても、ジニーの目は固く閉じられていた。微かに息があるだけで、確実に弱っていくのが目に見えたミラは、目の前で死んでしまいそうなジニーに心が張り裂けそうになった。----何がチャンスだ、そんなことすら与えてくれるような人物ではないことくらい、わかっていたはずなのに…。
「君がその子を助ける気でいたのは知っていた」
背後から声が聞こえた。ミラはジニーを抱えたまま振り返ると、背の高い、黒髪の少年がいた。不思議なことに、その少年は曇りグラスの向こうにいるかのように、輪郭が奇妙にぼやけていた。
「…アンタが、トム?」
「この姿で会うのは初めてだったね。そう、僕がトム・リドルだ」
まるで今も在学しているような少年の姿に、ミラは信じられないものを見るような目で見ていた。トムが在学していたのは五十年前のはずなのに、後ろに立っている少年は一切の老いを感じられない。まるで時が止まってしまったか、十六歳のままの姿をしていた。