第44章 死の覚悟
しばらく歩くと、前方に硬い壁が見た。その壁には二匹の蛇が絡み合った彫刻が施されていて、その蛇の目には輝く大粒のエメラルドが嵌め込まれていた。トムがその彫刻に近付くと、またしても蛇語で何か話した。壁が二つに裂け、絡み合っていたヘビが別れ、両側の壁が、滑るように見えなくなった。
中に入ると、左右一体になった蛇の彫刻が、奥の方まで続いていた。更に奥まで進んでいくと、部屋の天井に届くほど高く聳える像が、壁を背にして立っていた。ミラはその巨像を見上げると、年老いた猿のような顔に細長い顎ヒゲがあり、その顎ヒゲが流れるように石像となった魔法使いの石の上衣の裾のあたりまで延びていて、その下に灰色の巨大な足が二本、滑らかな床を踏みしめていました。
一体誰がこんな趣味の悪い像を建てたのだろうと思っていると、トムはその巨像の足の間に立って振り返った。上衣のポケットから一つの試験管を取り出した。その試験かには蓋がされており、中には銀色の光がふわふわとその中で漂っていた。
「これは君の記憶だ。この記憶を取っておいたのは、君が僕に敵わないということを思い出してもらいたいためだ」
トムは試験管に嵌め込まれたコルクを抜くと、杖をその中に差し込み、記憶を引っ張り出した。杖をミラに向けて振ると、淡い銀色の光を放っているものは、フワフワとミラの元へ辿り着いた。触れるべきか、避けるべきか考えあぐねていると、その光はスッとミラの胸の中吸い込まれるように消えていった。
すると、頭の中でまるで映画のワンシーンが強制的に思い出すような光景が、一気に雪崩れ込んできた。ミラはあまりの情報の多さに、その場でふらつき、膝をついた。記憶は、ハーマイオニーが図書館へ行ったときに追いかけていたところから始まった。ドラコが話があるからと部屋に連れ込まれ、呪文解除の魔法をかけてくれたことや、ジニーを操っているトムが現れて、戦いになったことなどを思い出した。
そして力尽きて倒れてしまったあと、ドラコの記憶を抜いたのは自分だ。放って行けと言ったのに、ドラコは医務室に連れて行こうとしてくれた。薄いグレーの瞳から溢れた涙まで、はっきりと思い出せた。なら、ジニーは…もし操られていた時のことを思い出したら…。