第40章 暗転
呪文の一つがトムに当たり、ジニーの体はその場から吹き飛んだ。壁に強く打ちつけた体は、ズルズルとゆっくりと壁伝いに滑り、床に倒れ込んだ。
「----や、やったのか?」
今まで怯えてドラコが、静かに立ち上がりながら、それでも恐々と動かないジニーを見て呟いた。
ミラは耳鳴りが聞こえた。意識が遠くなっていくのもわかった。目を瞑ってしまうと、今すぐにでも眠れてしまいそうなほどの疲労を感じていた。体から力が抜けていき、体が傾き出した。
「おいっ!」
倒れそうなミラの体を、ドラコは咄嗟に支えた。しかし、完全に脱力してしまっているミラの体は重く、ドラコはその場にミラと座り込んでしまった。
「ちゃんと立て!ここから逃げ……ヒッ」
ドラコがミラの顔を覗き込むと、ミラの片方の鼻からは赤い血が流れていた。口元までたれ、黒い上衣にポタポタと垂れて、血を吸い込んでいた。
「----い、て」と、 ミラは力なく呟いた。
「い---って----はや、く----せん、せ…」
もう眠ってしまいたかった。体も言うことを聞かず、ズッシリと重たく感じていた。もう指の一本すら動かせない、目を開けているのも億劫にだった----そして、ミラは静かに目を閉じた。
顔面蒼白で弱々しいミラの様子に、ドラコは震え出した。ジニーに視線を向けると、ジニーはピクリとも動かずに倒れたままでいた。
(逃げるべきだ、こんなところ…さっさとコイツを置いていけば…)
そう思っているのに、ミラの肩をを支えいる腕は動こうとはしない。
『ドラコ…っ、どうにかする、からっ……動けっ!!』
結局ことが終わるまで、ドラコは動けなかった事にやっと後悔のようなものが押し寄せた。戦闘が始まるや否や、自分はミラに庇われるばかりか、完全に足手まといだった。だからミラは逃げなかった、いや、逃げれなかった。
止まらない鼻血が、ブラッジャーを止めたあの日を思い出い出させた。ブラッジャーを破壊した後、力なく倒れ込む体、鼻から流れる血、蒼白な顔----急いで医務室に運ばれていくミラを、自分はぼんやりと見送ることしかできなかったこと。