第37章 幸せの箱庭
「ドラコ、寒い?」
「ん?ああ、寒いな。誰かさんが宿題の確認なんてさせなかったら、僕はさっさと暖かい談話室に帰れたんだが?」
と、羊皮紙から目を離さずドラコは言った。
どんな状況でも嫌味が言えるなんて凄いなと、ミラは思った。
「ごめんって。お詫びにこの部屋を少しくらいなら温めてみるよ」
「何言って----」
ミラは部屋にある蝋燭を見渡すと、手をかざして魔力をこめる。ミラのかざした手が通過したところから蝋燭に火がポツポツと灯り、部屋にあった全ての蝋燭の炎で、部屋が一段と明るくなった。
「時間はかかるけど近付いたらほら、暖かい」
と、ミラは近くにあった蝋燭に手を近付けて微笑んだ。
「お前…今、杖なしでやったのか?」
ミラは驚いている様子のドラコに首を傾げた。
「----力を使ったのか」
ドラコはもう羊皮紙に目を通していなかった。ミラは「あ」と、今気が付いたように声を漏らした。無意識だった。ミラはしまった、という顔をすると、ドラコから目をそ逸らした。
(しまった、どうしよう、誰にも知られずに練習してたはずが----寝不足でそこまで頭回ってなかったのか?)
ドラコからはジロジロと見られているような感覚がして、ミラの顔はますます硬くなった。ドラコは気まずそうなミラの顔を注意して見つめた。酷い隈があるのと、顔色が少し悪いくらいで、赤い液体が鼻から垂れる様子はなかった。
「----ふん、少しは使い物になるじゃないか」
「え?----聞かないの?」
「何をだ?それとも聞かれたいのか?」
ドラコはまた羊皮紙に視線を戻すと、それ以上追求されることはなかった。