第37章 幸せの箱庭
「ごめん、最近忙しくて…」
「眠れないほどか?」
ドラコはジッとミラの目の下の隈を捉えるように言った。休暇中には見受けられなかった隈が、今ははっきりと浮き上がっていた。ミラの白い顔には余計それが目立って、誰が見ても寝不足なのがバレバレだった。
「…ちゃんと寝てるよ」
ミラはドラコから目を逸らした。真夜中の魔力コントロールもラベンダーたちが休暇で戻ったせいで、また談話室の練習に戻った。談話室ではいつ誰が目を覚まして降りてくるかわからないため、時間を短縮した方だ。
それでも、朝起きるのがしんどくなっていた。空いた時間を見つければ眠っているはずなのに、眠っても眠っても体の怠さは取れなかった。
「宿題が溜まってるせいかも…特にどっかの陰険教師が大量に出したせいだ」
「はっ、あの程度もこなせないのか?これから先が思いやられるね」
「いつもはハーマイオニーと一緒にするから、本とか資料とか持ってきてくれて……ドラコはもう終わったのか?」
今のミラに、ドラコの嫌味は通じなかった。ぼんやりしている頭のせいか、今ならどんな嫌味を言われても気にならない自信があった。
「当たり前だ」と、ドラコは自信満々に答えた。
「あんな簡単な薬、見なくても作れる」
「そりゃ凄いね。あ、じゃあついでにこの宿題の確認をしてよ」
「なんで僕が」
「まぁまぁまぁ」
ミラはカバンから羊皮紙の巻物を取ると、それをドラコの目の前に突き出した。ドラコは悪態を吐きながらも、乱暴に巻物を取った。羊皮紙を広げ、上から下へ目線が下がっていくのを、ミラはぼんやり見ていた。
ふと、ドラコの唇が少し青く、手もよく見れば指先は白い。自分の吐く息が今更白いことにも気が付いた。