第37章 幸せの箱庭
夜になれば、一人の女子部屋で魔力のコントロールを行うことが、日課になりつつあった。ただ蝋燭を睨み付ければいいというわけではなく、一点に魔力を集中することを意識した。テーブルに並べた三つの蝋燭を、右から順番に一つずつともせば、次は左から消していく。
だいぶコントロールできるようになったと思ったミラは、ハーマイオニーのサイドテーブルに置かれた本の山に手をかざして集中した。本の山はガタガタと最初は揺れるだけだっただ、上に積まれた本からゆっくりと宙に浮かび始めた。
その成果を日記に書くことも日課だった。不思議なことに、その日記は書けば文字は消えてしまうのだが、ミラはこれをやらなければいけない気がした。どうしてそうしたいのかわからないが、これは必要なことなのだという意識しかなかった。
「ミラ…」
そんな特にたわいもない日を過ごしていると、ジニーが何か言いたそうな顔で日記を受け取った。
「ん?どうかした、ジニー?」
「…ミラはその…最近ぼんやりすることとかある?えっと、目が覚めたら、急に知らないところに立ってたり…なんて…」
声が掠れて、最後は聞き取りにくかった。
「ぼんやり…?そんなことないけど…ちょっと体がだるいくらいかな?休暇で規則正しい生活してないし」
それは誰もいない女子部屋で魔法の特訓をしているせいで、眠るのが遅くなっているからだとミラは自覚していたが、夜な夜なそんなことをしているなどと、ジニーには言えなかった。
「そう…」
ジニーは落ち込んだようにため息をついた。
「---ジニー、もし君がぼんやりしてたら、声を掛けるよ。ほら、休暇中みんなで遊びまくってたから、疲れてるだけかもしれないし」
「…うん、多分そうかも…聞いてくれてありがとう」