第36章 這い寄る闇
駄目だとわかっているのに、フワフワした頭ではもう何を嫌がっていたのかもわからなくなってきた----ハリー、ロン…ハーマイオニー……ジニー…………ドラコ………………。
トロンとした目でトムを見上げると、トムは杖を一振りした。体を縛っていた縄が消えると、ミラは上体だけを起こして、座り込んだままぼんやりとしていた。
「君の『特別な』スリザリン生の名前は?」
「…ドラコ。ドラコ・マルフォイ」
「ああ、マルフォイ家の息子だったのか。あそこは中々の純血主義の一族だ。しっかり学んで来るんだ、純血が他のどの魔法使いよりも優れていることを」
ミラは静かに頷いた。
「それから、この日記のことは忘れるんだ。だが、魔力のコントロールは続けろ。経過報告は忘れずに日記に書くんだ」
「…」
ミラはまた静かに頷いた。
「返事をするんだ」
「…はい」
「僕はまだ完全じゃない、まだもうしばらく時間がかかる----だが、時が経てばこの借り物の体じゃなくなる。それまで、ちゃんと僕のいうことを聞くんだ、いいかい?」
「…はい」
夢見心地に頷いているミラに、トムは目を細めてミラの頬に手を添えた。
「気が付いた頃には、君も立派な死喰い人(デスイーター)になっている。君にはその素質があると思っているんだ」
トムが何を言ってもミラには心地良く、ずっとこの幸福感に包まれていたいとさえ思った。
「誰にも僕のことを話したら駄目だ。これは、僕たちだけの秘密だ」
ミラはうっとりと、嬉しそうにトムを見上げて「はい」と応えた。